しろいし緑の芸術祭

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「芸術祭をきっかけに白石の魅力をたくさん見つけてほしい」 —白石町長・白石町観光推進協議会会長・副会長インタビュー

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2023年2月から開催している「しろいし緑の芸術祭」。芸術祭の舞台となる白石町の田島健一町長、白石町観光推進協議会の赤坂宗昭会長、秀島正洋副会長に、白石町の魅力や芸術祭への期待を伺いました。

おおらかな空気が漂う農業の町

—まずは白石町の地形や歴史などの特徴を教えてください。

町長 白石町は有明海に面し、背後に杵島山がそびえる約100平方キロメートルほどの町です。昔は、杵島山の辺りまで有明海だったそうですが自然陸化と干拓で土地を広げていきました。なので、山が占める割合が7%、あとの93%は平地ととにかく平地が多いです。

干拓は農地拡大のために行われたのですが、白石には大きな水源がありません。水の確保は近代以降ずっと課題になっていました。よその地域のため池の利用や少ない井戸水を汲み上げるといった対策を行なって、近年嘉瀬川ダムができてからは生活用水、農業用水をいただいています。水源を他地域に頼っているのも大きな特徴と言えるでしょう。
歴史や文化といった面では、杵島山にある日本三大歌垣がありますし、戦国時代には現在の北部九州を支配した龍造寺家の城もありました。

白石町の田園風景。写真は、有明海の沿岸から撮影したもの。

会長 山間部には、古くからの神社仏閣があって、色んな言い伝えが残っているんですね。町の人たちに、自分の住んでいるところはとても良いところだと認識してほしいし、観光にもそういったものを取り入れていかなければと思っています。

副会長 町の中にJRの駅が2つ、高校も2校ある。町の規模と比べると充実しています。最近は、小中学校の統廃合などもありますが、住民が主体となって教育や子育てをどうやっていくか工夫している印象があります。
あと、皆さん優しいです。私は、以前両親が旅館を経営していたのですが、町外から泊まりに来られる方たちは「白石の人たちは優しかねえ」「なんかもう退職してからこっちに住んでもよかかなと」と言っていました。

—白石町といえば農業が盛んなイメージです。

町長 「白石のお米、野菜は全ておいしい」とよく言われます。干拓以前からずっと作っていたお米はもちろんですが、重粘土の土壌がレンコンの栽培に適しており、玉ねぎやスイートコーンなど土地に合った作物がたくさんあります。「やっぱり白石のスイートコーンじゃなからんば食べられん」と言う人もいるぐらいです。
干拓で農地を拡大したので、土地が新しく、土の中のカルシウムやミネラルが豊富。そんな環境で育てられているからおいしくなるんです。人も、農家を中心に研究熱心な人が多い。新しい作物にチャレンジしている若い世代もいます。全国的に農業従事者は減っていますが、白石町は佐賀県の中でも下り幅がゆるやか。白石町で農業をしたい人を全国的に募っているし、トレーニングファームや農業塾といったサポートもしっかりやっています。おかげで、大学院や一流企業にいた人が「農業やる!」と移住されてくることもありますね。

れんこん掘り体験を楽しむ子どもたち。(写真は白石町提供)

町民主体の白石町を盛り上げる機運づくり

—観光面で課題に感じていることはありますか。

町長 白石町もさることながら佐賀県全体に言えることですが、皆さん「うちはなんもなか」って口癖のようにおっしゃる。でも、外から来た人が見ると「いろいろあるじゃないですか!」となる。まずは地元の人たちが自分たちの地域を再発見しないといけないと思っています。たとえば、杵島山からは白石町を一望できます。大きな建物や工場がなくて、ひたすら農地と点在する農家、川、有明海だけで構成されている。プロのカメラマンにも「これは最高の景色だ」と言われるほどすてきな眺めなんです。

ほかにも、ひたすらに広がるレンコン畑なんかも、普段見慣れているけど写真になったら「え、これどこ?」って言いたくなるような景色です。
だから、何かないと観光にはならない、ではなくて、私たちが何とも思っていないことも観光になるんじゃないかな。農業だって観光につながっていくと思います。最近子どもたち向けにやっている芋掘り体験や収穫祭を観光化するのもいいですし、すでにいちご狩りを観光客向けにやっている農家もいますから。

会長 町長も言っていますが、よその人が見る目と、地元の人が見る目は違う。当たり前すぎることは「これを紹介して大丈夫なのか?」と不安になると思うんですね。まずは町民が自ら町のことを勉強して、自分たちで「これはおもしろいんだ」と認めてあげる。そうして、町民たちが観光をPRするようになると訪れる人はもっと多くなるのではないでしょうか。

町の中に「縫ノ池」という、湧き水でできた池があるのですが40年ほどずっと枯れていたんですよ。それが復活したとき、周りの人に「縫ノ池は湧き水が出て、古い歴史もある。みんなに紹介したらもっと人が集まるし、素晴らしいものになっていきますよ」と言われたんですね。認めるってこういうことなのかな、と。ということで、まずは町内の人たちが、白石町を一番と想うように気持ちを変えてもらえれば、一番いいかなと思います。

800年以上の歴史を持つ縫ノ池。枯れた湧水が2001年に40年ぶりに再び湧き出るようになった神秘的な池。美しい景観とこんこんと湧き出る清らかな水を求めて訪れる人が多い。(写真は白石町提供)

副会長 観光地=京都・奈良といった一般的なイメージにとらわれていて、魅力を見つけたり、発信したりということがあまりできていなかった。官も民も連携できていなかった部分もあると思います。

町長 いま、有明海の沿岸の市町で連携して観光をがんばっていこうという動きがありますが、白石町だけ観光協会がないんですよ。見るべきものはある。ただ、それをどう見せるかという動きが遅れている気がしますね。

—そうした現状があるなかで芸術祭を行うことについてはどう思われていますか。

町長 昔と違った意味での観光が打ち出せる、いわば既存イメージから脱皮した状態を生み出せる。良いんじゃないでしょうか。

会長 新たな観光資源を作るということですよね。今までの観光資源の深掘りや町のイメージ形成につながっていくと思うんですね。これからは、すでにある観光資源を大事にすることも、新しい観光資源を作ることも大事にしていかないといけないと考えています。

芸術祭第一期で行なったアーティストによる鑑賞ツアーの様子。町内外から多くの人が訪れた。

副会長 道の駅しろいしには、年間 50万人以上の方が来場されます。それだけの人に町内外から来ていただいているんですね。その人たちが町内に点在する観光資源を回遊する仕掛けになると良いなと思います。芸術祭をまず始めることができたのは、やっぱり良かったのかなと。チャンスを逃さなかったという点では、グッドタイミングだったと思っています。ここからは、成功体験を積み重ねながら、試行錯誤しつつ継続していくことが大事。どう仕掛けていくかは毎回変わると思いますが、いろんな芸術家の人との交流が生まれて、その交流の輪がまた広がってきて、そしてまた人が集まってくるという流れができるのが、ベストだと考えています。

会長 芸術祭をやることで、若い人たちが来てくれるのではないかと期待しています。「白石町でこんなことやってるよ」と若い人たちがSNSなどで発信して、それを見た別の若い人が来てくれる。そういう良い循環ができたらいいなと。だからこそ、成功させなくてはと思います。

—しろいし緑の芸術祭は、白石町出身のアーティスト・木下友梨香さんや町内で牧場や飲食店を経営している吉原龍樹さんが中心となって動いています。こうした動きについてはどう思われていますか?

会長 白石町観光推進協議会が設立されてからずいぶん経ちます。白石町を訪れるために、いろんな方法を試してきましたが、決定打は未だにありません。そのなかで、若い人たちがこれまでとは違う提案をして、中心となって取り組んでいくのは協議会としても良い方向に動いていくのではないかと思っています。

町長 若い人たちの中には、白石町の魅力を客観的にとらえている人もいます。特に、今は白石を離れてよそで活躍されたり、一度離れてUターンしてきたりした人たちはそうですね。そういった人たちと町が一体となって「白石を盛り上げていこう!」という機運がワッと盛り上がれば最高ですね。

※取材日は、2023年1月30日。所属およびインタビュー内容は当時のものです。

聞き手・文:立野由利子 撮影:作本奈寧子・勝村祐紀

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